テ・アモ(Te Amo)第3章
約半時間後、黄色いタイルの壁に安っぽいレースのカーテンが懐かしい店で、パエリヤの上に驚くほどの量のライムを絞りながら、彼女は、私の顔のパーツひとつひとつ を、検分するようにじろじろ見ていた。彼女の均整の取れた顔を眺めていると、自分の低い鼻やら奥二重の目やらが少々不安に思えてくる、そのくらい彼女は容赦なく私を眺めた。
「で、奈津江さんは、彼氏とかいんの?」
「あ、うん、高校の時から付き合っている彼がいるけど。」
と言うと、「写真、見せて」
私の入学式の時に肩を寄せて笑っている写真を見せたら、しばらくジロジロと眺めた後、
「ふうーん。背、高いね。」
多分、エリカと出会って、失礼なやつ、と考える人は多いのだろう。 呆れるほどの一般礼儀のなさの陰には、場違いなほどの無垢が、見え隠れしていた。
彼女の言うことには、両親は小さい時に死に別れ、叔父さんが息子二人と共に、エリカを育ててくれた。九歳の時にその叔父さんが遠い親戚を頼って、日本に出稼ぎに来て、子供たちを呼び寄せ、居ついてしまった。今は叔父さんは埼玉の工場で働いているらしい。
高校を出てしばらくブラブラしていたが、今は、知人のメキシコ料理屋で調理のバイトをしながら、通訳と翻訳の仕事もして家計を助けているという。その割にあくせくしていないし、わけがわからない。
「だから俺の家族は、兄さん二人と、おじさんと、俺で、ペルー人の男は家事なんてしねえから、こう見えても俺は洗濯や掃除が得意なんだぞ」
本当に見えないね、と返すと、笑いながら殴るふりをされた。彼女の荒い言葉遣いのわけがわかった気がした。
(次回へ続く)
(第1章から読むーー>テ・アモ(Te Amo)第1章 - サルサ・ラバーズ小説)
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